クロール選手にとって肩の痛みは最も一般的な慢性障害です. 水泳選手が肩を痛める原因は,繰り返し行われるクロールの際に肩関節内(正確には肩甲上腕関節内)の圧迫(インピンジメント)によって生じた慢性炎症です. 但し,これまでの研究では肩甲骨の動きを測定せずに,圧迫されているかどうかを検討していました. そのため,過去の研究で得られた結果は再検討される必要があります. そこで,本研究では胸骨,肩甲骨と上腕骨によって構成される運動学的なモデルを使って, 3名の大学水泳選手を対象に実験を行い,クロール中に生じる肩関節内の圧迫の発生局面と期間を検討しました. クロール中に生じる肩関節内の圧迫は手部が水へ入水する瞬間の前後,および,キャッチ期とリカバリー期後半に発生することがわかり, この結果はこれまでと同様でした.発生期間は一ストロークのうちに0~12%で圧迫が生じていることが明らかとなりました. これは,以前の研究よりもはるかに短い時間でした.この違いは水泳中に肩甲骨の動きが肩関節内の圧迫を緩和させている可能性を示しているのではないかと考えています.